適切な治療で、透析を予防することができます。

今、慢性腎臓病が注目されています。慢性腎臓病は英語で chronic kidney disease ですので、最近ではその略語によりもっぱらCKDと呼ばれるようになってきています。慢性糸球体腎炎や慢性間質性腎炎、腎硬化症、多発性嚢胞腎、糖尿病性腎症など慢性的に持続する腎臓病の全てがCKDの範疇に入ります。CKDの患者数は日本人の10%以上にものぼることが明らかになってきています。

これらは進行すると末期腎不全となり透析療法が必要になることが問題です。しかし適切な腎機能保存維持・改善療法により透析を予防することができます。

CKDの主な原疾患

■慢性糸球体腎炎

微小変化型ネフローゼ症候群、巣状分節性糸球体硬化症、メサンギウム増殖性糸球体腎炎(lgA腎症など)、膜性腎症、膜性増殖性糸球体腎炎、半月体形成性糸球体腎炎

■全身性疾患に伴う腎障害

糖尿病性腎症、膠原病の腎障害(ループス腎炎など)、紫斑病性腎炎、アミロイド腎、骨髄腫腎、痛風腎

■血管性疾患

腎硬化症(高血圧性腎障害など)、全身性血管炎(多発性動脈炎、Wegener肉芽腫症など)

■中毒性腎障害

薬物性腎障害(非ステロイド性鎮痛消炎薬、造影剤など)、重金属による腎障害(水銀、カドミウム、金など)

■嚢胞性腎疾患

多発性嚢胞腎

■腎の感染症

腎孟腎炎、腎結核

■その他

腎結石、腎腫瘍


このように、慢性腎臓病(CKD)の原疾患は多数ありますが、どのようなものから透析療法が必要になった患者さんが多いのか、2019年の1年間(38,556人)での頻度割合は下のグラフに示したとおりです(日本透析医学会統計調査結果)。この図からも分かるように、糖尿病性腎症が最も多く、次いで腎硬化症、慢性糸球体腎炎が多いのです(2019年より、腎硬化症が2番目となりました)。これらは成人の3大腎臓病と言えます。4番目は多発性嚢胞腎ですが、3大腎臓病に比べると頻度はぐっと少なくなります。腎臓移植を受けた患者さんがその後腎機能が悪化し、再度、透析が必要になった方も見受けます。

腎機能保存維持・改善療法

原因をとり除く

腎臓病の進行を防ぐ最も根本的なことは、当たり前のことですが、原因をとり除くことです。病気を引き起こした原因を取り除くことが治療の根本であることは、どのような病気でも同じです。しかし腎臓病では、発病の原因が解明されていないものがあります。また原因は概ね分かっていても、取り除くのはなかなか難しいことがあります。

①糸球体腎炎:

原因は免疫の機序で起こることが多いことが少しずつ分かってきています。つまり、外から身体に侵入する異物(抗原と言います)により生体に引き起こされる反応に端を発している場合が多いことが分かって来ています。
糸球体腎炎には色々なタイプがありますが、その一部のタイプでは、身体に侵入した細菌やウイルスに対する生体の免疫反応に端を発していることが証明されています。ですからそのようなタイプの糸球体腎炎では、うまく細菌やウイルスを駆除できれば治療の見通しが立つことになります。しかし、細菌の駆除には抗菌薬が有効ですが、ウイルスを駆除するのは実際には困難なことが多いのです。また大部分の糸球体腎炎では、発病の端緒となる抗原が未だ解明されていないのが現状ですので、駆除の仕様がありません。
そこでさらには、免疫反応そのものを抑えようという治療もなされます。これには、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制薬が用いられます。
ともかく、原因となっている免疫の機序が抑えられれば、腎障害の進行は防げるわけです。

②糖尿病性腎症:

この腎臓病は、糖尿病での高血糖が原因となっています。したがって、糖尿病の患者さんでは、血糖コントロールを正常近く良好に保つことにより、本症の発病を防ぐことができます。また、たとえ糖尿病性腎症を発症しても、早期のうちなら血糖コントロールを正常近く良好にすることにより改善が期待できます。しかし糖尿病性腎症がかなり進んでしまった後期では、このような血糖コントロールの効果は認めにくくなくなってしまうのです。

③腎硬化症:

腎硬化症は、腎臓の動脈硬化が原因で起こります。高齢になるとどうしてもある程度、動脈硬化が出ます。また高血圧が続いていると、腎臓の動脈硬化が起こり、進行も早いのです。歳をとるのは抑えられませんが、高血圧は薬物療法や食事療法、運動などでコントロールできます。

残存糸球体と尿細管の荒廃を防ぐ

腎機能低下の進行を抑えるには、腎障害の原因をとり除くことができれば一番良いのですが、それが口で言うほど簡単ではなく、全く無理な場合も多いことは既に述べました。かといって、このような場合、腎臓病が進むのを黙って見ているわけにはいきません。
そこで、障害を負いながらもまだ機能が残っている残存糸球体の荒廃(糸球体硬化)と尿細管荒廃(線維化)を防ぐ対策が取られます。

①高血圧のコントロール

1) 高血圧の害

腎臓病では高血圧となりやすく、腎性高血圧と呼ばれています。また高血圧は、もとの腎臓病を悪化させ腎機能低下を早めるという悪循環となります。さらに高血圧は、腎臓以外でも脳卒中などの原因ともなり危険です。ですから、ぜひとも高血圧のコントロールが必要です。高血圧の患者さんでは、血圧コントロールにより腎機能低下の進行が抑制されます。

Ⅰ度高血圧 140~159 / 90~99 mmHg
Ⅱ度高血圧 160~179 / 100~109 mmHg
Ⅲ度高血圧 180以上 / ≧110以上 mmHg
2) 目標とする血圧コントロール値(降圧目標値)

腎臓病の人にとってどのくらいまで血圧を下げておけばよいかの目標値は、各患者さんの病態や年齢により一人ひとり違いますので画一的には言えません。しかも後でも述べるように、血圧は恒常的に一定になっているわけではなく、一日のうちやその瞬間ごとに常に変動しています。したがって各患者さんの身体状況に合わせて、丁度良い血圧でコントロールできればベストです。
一般に、尿たんぱく陽性の腎臓病の人の血圧コントロールの目標値は130/80mmHg未満とされています。ただし糖尿病がなく尿たんぱく陰性(0.15g/日未満)の人は140/90mmHg未満が目標値です。また、75歳以上の人での血圧コントロールの目標値は150/90mmHg未満とされています。
しかし一方、臓器の血流不全を起こすような血圧の下がり過ぎは良くありません。血圧の下げ過ぎにより、かえって腎機能低下が促進されたり、脳卒中や心筋梗塞が増加したとの調査結果が示されています。とくに高齢者やすでに動脈硬化が進んでいる人では注意が必要です。とくに立ち上がった瞬間に血圧がさらに低下し(起立性低血圧)、失神発作にいたることもあります。

3) 高血圧の治療法

i. 食塩(塩分)制限
腎性高血圧の第一の原因は、塩分摂取の過剰です。腎機能が低下するのに伴い、過剰に塩分を摂取すると尿に全部排泄できずに体内に滞留します。塩分の滞留は細胞外液量の増加をきたすことにより、高血圧となります。また同時にむくみの出ることもあります。
ですから、まず塩分を制限することが、腎臓病での高血圧を治療する基本です。

ii. 降圧薬の服用
最近では、優れた降圧薬がたくさん出ています。注意しなければいけないことは、塩分過剰状態ですと降圧薬の効果が出にくくなることです。やはり塩分には十分注意して、制限する必要があるのです。腎不全患者さんでは、塩は毒と同じです。

4) 血圧の変動について

普段は正常血圧なのに、病院へ来た時だけ血圧の上がる患者さんもいます。このような現象は白衣高血圧と呼ばれています。ですから、病院で測定した血圧値にもとづいて降圧薬を服用すると、普段は下がり過ぎていることがあります。また立位の状態で血圧が著しく低下する場合があります(起立性低血圧)。
一般に、血圧は一日の内でも然に上がったり下がったりしており、血圧日内変動と言われています。夜間就寝時はかなり自然に下がっており、朝起床時には一時的に高くなることが多いのです(早朝高血圧)。
ですから、普段の血圧(家庭血圧)を自分で測定して記録しておくことが大切です。

②薬物療法

残存糸球体の荒廃(糸球体硬化)を防ぐのに決め手になるような特効薬は、現時点では残念ながらありません。しかし以下のような薬物はある程度有効です。
* アンギオテンシン変換酵素阻害薬、同受容体拮抗薬
もともと降圧薬として出来た薬です。降圧効果とは別個に糸球体の過剰濾過を抑制して、残存糸球体の硬化を予防する作用があります。

③低塩・低たんぱく食事療法

食事の食塩とたんぱく質を減らす低塩・低たんぱく食事療法は、腎不全による透析を著しく抑制することができます。この食事療法の効果は、腎機能低下が軽いうちはあまりはっきりしません。しかし腎機能低下が顕著となり腎機能が低ければ低いほど(ステージ4,5)、透析予防に対する食事療法の意義は大きくなり薬物療法を凌ぐ目に見えた効果を発揮します。

腎障害の追加原因を避ける

表に示すような事は、単独でも腎臓の障害や機能低下を起こす原因となる可能性があるものです。元々腎臓病に罹っている人に、このような原因が追加されると、腎機能低下が急激に進む事が多いので、なるべく避けなければいけません。

表.腎障害が追加される原因

  • 腎毒性薬物:
    非ステロイド性消炎鎮痛薬、造影剤、抗癌剤
  • 脱水または溢水状態
  • 血圧の下がり過ぎ
  • 尿路閉塞性疾患の合併
    前立腺肥大、神経因膀胱、結石
  • 過激な肉体運動
  • 感染症(とくに尿路感染症)
  • 電解質の異常
    高カルシウム血症、低カリウム血症、高リン血症

* 腎毒性薬物について

このうち頻度が多く、とくに注意する必要があるものとして、腎毒性薬物があります。つまり腎臓病患者さんが他の病気にも罹った時に、治療や診断のために使われる内服薬や注射薬の中に腎臓に負担がかかるものがあるのです。ですから、腎臓病以外で他の病院や他の科を受診したときは、必ず忘れずに自分に腎臓障害があることを担当医に告げて、このような薬物の使用を控えてもらってください。

  • 非ステロイド性消炎鎮痛薬:内服薬。たくさんの種類があります。感冒や腰痛、歯痛などの時に日常的に出されます。
  • 造影剤:注射薬。エックス線撮影で、血管や腫瘍を写し出して診断をつける時に使われます。少量なら大丈夫ですが、腎機能がすでに低下している患者さんでの大量使用では腎臓障害を早めます。
  • アミノ配糖体抗生物質:注射薬。細菌感染症の治療に使われます。
  • 抗癌薬:主に注射薬。悪性腫瘍の治療に使われます。

この他にもまだあります。今述べたような薬は、なるべく使用しない方が良いのですが、腎臓病が軽い場合は大丈夫なこともあります。また、他の病気が重い時にはどうしても使わざるを得ない場合もあります。