腎機能が高度低下状態(腎不全)での保存維持療法と透析回避

腎臓の働きが正常の30%程度以下に低下すると、下の表に示すような異常が発生します。そして、これが進行すれば透析が必要となります。しかしこれらの異常は、食事療法を基本にしてこれに薬物療法を追加する綿密な治療(保存維持療法)により、かなりの改善が見込め透析を長期に防ぐことができます。

<腎機能が高度低下 (腎不全) 状態で生じる異常>

  • 排泄障害 → 終末代謝産物や摂取物質の体内への貯留
    (尿素窒素、クレアチニン、食塩、ナトリウム、水分、カリウム、リン、酸、など)
  • エリスロポエチン分泌低下 → 血色素量低下(腎性貧血)
  • 活性型ビタミンDの産生低下 → 血清カルシウム低下

保存維持療法とチーム医療

このような保存療法は医師と管理栄養士や看護師などのチーム医療体制で行われます。
食事コントロールや正確な服薬管理などは、患者さんが日々の生活の中で自分で行ってこそ初めて効果が出る療法なので、ここでは患者さん自身も医療チームの一員となるのです。病院の医療スタッフは患者さんと協力して、各患者さんの病態や生活にあわせた適切な方針が立てられ、各患者さんが実行しやすい方法を指導・相談します。
各患者さんに適切な方針が上手く立てられるかどうか、実行する方法を上手く指導・相談できるかどうか、そして保存療法がうまくいくかどうかは、医療担当者(医師、管理栄養士)の経験や見識、技量や情熱により大きく左右されます。

腎機能保存維持の食事療法(保存維持食事療法)

腎臓の働きが正常の30%程度以下(CKDステージ4および5)での透析導入の回避・遅延をめざす保存療法においては、食事療法が治療の上で中心的な役割を果たします。この保存維持食事療法の基本は、①食塩コントロール、②たんぱく質コントロール、③適正エネルギー量の摂取(炭水化物、脂質)です。保存維持食事療法により表に示す効果があらわれ、透析を遅延・回避できます。保存維持食事療法の実施により、透析導入直前にまで腎機能が低下していても、その後長期にわたり進行停止状態にて透析導入を遅延できることが経験されています(図)。

<保存維持食事療法での改善>

  • 老廃物毒素(尿素窒素)貯留の低減
  • 体液量の増加によるむくみや血圧上昇の改善
  • 血液酸性化(アシドーシス)の改善
  • 高カリウム血症の改善
  • 高リン血症の改善

<保存維持食事療法により、長期にわたり透析への進行が著しく抑制された高度腎障害(血清クレアチニン 9.0mg/dL)の症例(55歳、男性、糖尿病性腎症による腎不全)>

(中尾俊之、編著:知りたいことがよくわかる腎臓病教室、第4版、医歯薬出版、2015 より)

●食塩の量

1日5gとします。

●たんぱく質の量

保存維持食事療法でのたんぱく質の量は、標準体重当たり一日0.6gとします。この際、標準体重は、各患者さんの身長により決まりますので、たんぱく質の量は患者さんの身長別に決まります。また、標準体重当たり一日0.5g以下の超低たんぱく食がさらに有効との報告もあります。

身長 (cm) たんぱく質量 (g/日)
139以下 25
140~152 30
153~163 35
164~175 40
175以上 45

●低たんぱく食事療法でのエネルギー摂取

このような低たんぱく食では、同時に主として炭水化物からの十分なエネルギーの摂取が必要です。もしこのとき、エネルギー摂取量が不十分であると、自身の身体が異化分解されてエネルギー源として供給されます。このように、エネルギー不足では体蛋白量減少による体力低下、栄養障害に陥入ることになり危険です。
必要なエネルギー摂取量は、年齢、男・女、活動量により、患者さん個々に違います。

●低たんぱく食事療法の実行

適切な食事療法の内容は患者さん一人一人の身長や性別、年齢、活動量などで違うことはすでに述べました。不適当な内容の食事療法では、かえって逆効果となります。
治療用特殊食品の使用により、食事療法がやりやすくになります。治療用特殊食品の購費用は薬代の1/3くらいですが、不要な薬がたくさん処方されているケースもあるので、不要薬を処方から削除してもらうと医療費支出の上でも良いでしょう。また、食事療法が軌道にのれば、透析を予防できるばかりか、薬を大分減らすこともできることはよくあります。

薬物療法

食事療法を補完するかたちで、ループ利尿薬や高カリウム血症治療薬、沈降炭酸カルシウム、アルカリ化薬などが適量追加される場合があります。また腎性貧血(血色素量低下)に対しては、赤血球造血因子刺激製剤の注射が行なわれます。一時的に鉄剤が追加となることもあります。
有効性の高い薬物療法がある一方、有効性が低い薬や不要な薬が漫然と処方されていることもあります。そんなに沢山の薬が本当に必要か、食事療法を自信をもって進められない医師が、どうしても薬の処方量が多くなりがちのようです。